上尾歩のキネマ論評・死と向き合い続ける人々

遺体~明日への十日間~
2013年2月公開監督・君塚良一

 一瞬にして一万五千人以上の命が奪われた3・11の東北大震災。その津波によって亡くなった方々の遺体が、次々と安置所に運び込まれる。「遺体 明日への十日間」という映画は、ある一人のジャーナリストによる取材をもとに、遺体を家族のもとへ帰すために尽力した安置所の職員を描いている。

 西田敏行が演じた元葬儀屋の相葉は、遺体の扱い方を知らない現場の職員に、死後硬直のほぐし方や遺体への接し方、遺族への対応を教えて回った。

 「遺体は話しかけられると、人としての尊厳を取り戻す」

同じ街の仲間だからと、彼は優しく遺体に話しかけ続けた。彼の誠意のこもった行動は、周りの多くの人の心に変化をもたらせる。

 ある時、母親の顔色を治したいと言う女性が現れる。相葉は化粧をしてはどうかと持ちかけるが、化粧下地のクリームがなくて、その代わりにハンドクリームを使う。苦しそうだった母親の表情が、化粧をすることによって和らいで見えて、女性からは思わず笑みがこぼれる。悲しみにくれる安置所にも心安らぐ瞬間が確かにあった。

 安置所の職員は毎日のように運ばれてくる遺体と向き合い、残された遺族を亡くなった家族の死と向かい合わせる。この終わりの見えない仕事は二ヶ月間続き、その後この安置所は閉鎖された。震災から三年が経つが、再会を果たせていない家族は数限りなくいることだろう。何にあたればいいのか、やりきれない想いが募り、震災への憎しみが増すばかりである。

 テレビ画面で増えていく死者の数だけ、その死に向き合う人がいた。自身も被災者の一人であるにも関わらず、懸命に遺体とその遺族に温かく心配りをする職員には畏敬の念を抱くばかりだ。逃げ出さず、ひたむきに向き合い続けた安置所内での日々は、私には到底想像もできない。継続することの難しさと凄さを感じた。三年の月日が流れた今、この映画は報道では伝えきれなかった真実を私たちに訴えている。