グローバル人材育成が急務 ~「トビタテ!留学JAPAN」で留学機運を醸成~

 近年、ビジネスや国際協力等あらゆる領域において、複雑化し続ける世界の情勢に即応し、ボーダレスに動けるグローバル人材の育成が急務となっている。最近では、官民連携の動きも強まってきた。文部科学省主導で始まった官民協働の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」(以下「トビタテ!」)、そしてその核となる留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」(以下「日本代表プログラム」)はそのひとつだ。 「トビタテ!」の指揮をとるプロジェクトリーダーの船橋力氏、「日本代表プログラム」の奨学生3名に、グローバル社会下における日本の課題と留学の価値についてインタビューした。

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船橋力(ふなばし・ちから)
文部科学省官民協働海外留学創出プロジェクト プロジェクトディレクター 94年上智大学卒業、伊藤忠商事株式会社を経て、00年株式会社ウィル・シードを設立。企業と学校向けに、体験型・参加型の教育プログラムを提供。09年ダボス会議ヤング・グローバル・リーダーに選出される。

 

契機はダボス会議 新事業発足へ

   「意欲と能力あるすべての若者が、自ら留学に挑戦する」潮流を創ろうとスタートした「トビタテ!」。きっかけは、世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)で感じた危機感にあるという船橋氏。「世界は劇的に変化しているという事実、海外の同世代の圧倒されるほどの情報量、ディベート力や教養の深さにショックを受けました。今後さらにグローバル化が進めば、これからの世代は、どんな職業や立場であれ、同じような危機感と無力感を味わうことになる。ならば、日本の若者ができるだけ早く世界を知り、誰とでも互角に渡り合えるスキルを身に付けられるよう手助けをしたい」。そうした想いから、当時の下村博文文部科学大臣と日本の教育の課題を議論し、このプロジェクトは立ち上がった。

これからは納得解の時代

 ダボス会議で感じた危機感。理由のひとつとして、船橋氏は日本の「詰込み型」教育を挙げた。答えがひとつに決まっている従来のカリキュラムでは、正解を徹底的に叩き込み、それを早く正確に出せる力、情報処理力を鍛えれば十分だった。それゆえ自分で「考える」ことも、皆で議論することも少なかった。しかし今は状況が違う。「世界は正しい答えのない時代に突入していて、代わりにあるのは自分で導き出した『納得解』だけなのです」。技術発展やグローバル化により、手に入る情報や選択肢が無限に増えた。正解はひとつではなくなり、自分で条件を設定し、試行錯誤して検証する必要が生じた。

 また納得解とは、自分の考えを周囲に上手く説明し、統一の見解を得ることを意味する。だが、船橋氏は「これまでの『詰込み型』教育では、納得解を導き出すための『考える力』や『伝える力』が充分には身に付かない。また日本は、情報鎖国で比較的平和な島国であるため、外へのアンテナが低く、激動する世界のスピードに追い付いていないのが現状だ」と話した。  

危機感、高揚感を醸成する

 「日本代表プログラム」は、まさにこの現状を打破しようとする取り組みだ。「最終的にはすべての日本人にとって、海外が身近なものになるようにしたい」と意気込む船橋氏。そのためにも、奨学生には「エヴァンジェリスト(伝道師)」として留学先での経験や感じたことを発信してもらいたい。そして「世界は動いている、日本も進化すべきだ」という危機感、「世界はこんなにも広く、多様で面白い人や社会が存在する」というワクワク感を社会で醸成してほしいと期待をかける。「そうして川の流れを止めることなく、少しずつ日本を変えていきたい」。

「トビタテ!」一期生の声

 将来に迷いがあったが、留学を通じ、自分の研究テーマを極める決意が固まった後藤さん。非日常的な毎日を全力で過ごすことで、新しいこと、自分のやりたいことを発見できるのが留学の魅力だと語る。「社会課題の解決に取り組む際、自分を刺激してくれ、議論できる仲間がいることはとても大切。専門も個性もバラバラの『日本代表プログラム』コミュニティでは、そういった仲間が必ず見つかる」。

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後藤 正太郎(ごとう・しょうたろう)
京都大学大学院 地球環境学舎環境マネジメント専攻 修士2年生)
渡航先:バングラデシュ
留学目的:バングラデシュ国クルナ市スラムにおける水・衛生改善

 

 出水さんは、留学の成果として、フラメンコや語学力の進歩に加え、臨機応変な対応能力が身についたこと、「自分」がはっきり見えてきたことを挙げた。「『日本代表プログラム』の選抜審査や研修で、自分をどう表現するか考え目的を明確化したことは、大いに自分の成長につながった。留学は、その先の目的をしっかり意識できていれば一生の財産になると思う」。

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出水 宏輝(でみず・ひろき)
摂南大学国語学部スペイン語コース3年生)
渡航先:スペイン
留学目的:スペイン語習得と、若手男性舞踊家ファルキート氏によるフラメンコ指導

 

 「世界中の子どもたちを笑顔にする」ため、自分ができることを模索しようとインドへ飛び立った森さん。留学中、「違いを受け入れること」、「明日後悔しないよう今日を全力で生きること」を意識するようになったという。「初の海外滞在への不安を、挑戦する勇気に変えてくれた仲間に感謝します。留学に限らず、自分の価値観を広げる挑戦はとても良いこと。今度は私も、誰かの挑戦を後押ししたい」。

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森 泉咲(もり・みさき)
大手前大学 総合文化学部4年生)
渡航先:インド
留学目的:ヒンディー語習得と、NGOでのインターンシップ、孤児院でのボランティア

 

「自分は何者か」にしっかり答える

 船橋氏は最後に、関西の大学生へ向けて「今世界は確かに動いていて、変化しないと生きていけない不確実な時代。もっと敏感に危機感を持ち、また楽しみを世界に見出してほしい。関西の学生は特に個性的で、自分の考えを伝える能力もある。「個性」が多分に評価され、求められる世界では、自分の言葉で『自分は何者か』をきちんとアピールできるのは非常に大切なこと。活動の場が国内であっても、視野を広く、世界を見据えた心構えで日々取り組んでください」と語った。    (写真・文=平野美優)