<上尾歩のキネマ論評>戦時中の日本兵と英国兵

戦場のメリークリスマス

1983年日本公開
監督・大島渚

 今回の映画は、坂本龍一作曲の音楽で話題となった「戦場のメリークリスマス」である。この映画は、兵士が戦場で戦うといったシーンは全くなく、日本軍の捕虜収容所で起こる、捕虜達へのひどい扱いが描かれていた。自身でも捕虜について調べていくと、映画で描かれている以上の残虐な扱いがあったことも分かった。しかし、この映画では残虐な一面だけでなく、日本兵と英国兵が心を通わしていく様子も描写されていた。
 
 これはあまりに有名なシーンだが、映画の最後に日本軍のハラ軍曹(ビートたけし)が元捕虜だった英国兵のロレンス(トム・コンティ)に、画面いっぱいの笑顔で“メリークリスマス”と言う。日本は敗戦し、檻に閉じ込められたハラは自分の死を受け入れ、二人の思い出であったこの言葉を最後の別れの挨拶とした。
 
 戦時中のあるクリスマス、酔ったハラは捕虜収容所長に許可も取らず、死刑になるはずのロレンス達を呼び出し”メリークリスマス、ロレンス。”と言って釈放し、二人の命の恩人となった。そして時が過ぎ終戦を迎え、捕らえられたハラのもとを今度はロレンスが尋ねる。二人は静かに、昔のことを語り合った。激動の時代を生きた彼らのわずかな静寂な時間は、あっという間に過ぎてしまう。そして、ロレンスが帰ろうとハラに背を向けたとき、戦時中にロレンスに言った言葉をもう一度言ったのだ。”メリークリスマス、ミスターロレンス。”画面いっぱいのハラの笑顔は、戦争や自分の行いの愚かさを痛感し、それらが残していった物の全てを悟っているようだった。死を受け入れた彼の目は、戦時中よりも生気で満ちあふれていた。ロレンスはハラの”メリークリスマス”に命を救われた。しかし、ロレンスは自身の恩人を救うことは出来ない。この映画のラストを見るたび、メリークリスマスと言われたロレンスは一体どんな顔をしたろうと思いを巡らせるばかりである。
 
 戦争で得たものは、形に残らない教訓だけであった。戦争を体験した世代から、私たち大学生は三世代目にあたる。歴史を繰り返さないためにも、教訓に形を与えてくれているこの映画を皆さんに見てもらいたいと切に思う。