上尾歩のキネマ論評・目標にまっすぐなおじいさんの物語

ストレイト・ストーリー
1999年
デヴィッド・リンチ監督

四月から新しく大学生になる人は、自分のやりたいことに使える時間が大幅に増える。たくさんのことにチャレンジするのも、一つのことに夢中になって取り組むのも自由なのだ。しかし、何かを始めるには想像以上にエネルギーを使うため、気持ちが渋っている人もいるであろう。今回は、そんな人の気持ちを後押ししてくれるような映画「ストレイト・ストーリー」を紹介したい。

 アルヴィン・ストレイトは、足腰が弱く杖がなければ歩くこともままならない73 歳の老人だ。ある日、彼の元に兄が倒れたという知らせが届く。兄とは長年にわたり仲違いをしていたのだが、一目会いたいとアルヴィンは心を決める。しかし、目が悪くて車に乗れない彼は、約560キロの道のりを時速7キロの芝刈り機で、六週間以上もかけまっすぐに進んでいく。

 兄の家へ向かう道すがら、アルヴィンは色々な悩みを抱えた人達に出会う。家出をした女の子や自転車で旅をするグループ、立ち寄ったバーのマスターや芝刈り機が壊れた時に助けてくれたおじさん。彼は出会った人の話をよく聴いて、勇気が出るような言葉で返した。その中で印象に残っているのが、「年寄りになって悪いことは、若い頃のことを忘れられないことだ」という言葉である。体が老いていくにつれて、今までできていたことが少しずつできなくなっていくもどかしさから、かつての自分が思い返されるのであろう。タクシーやバスに乗って行けばすぐなものを、あえて彼は芝刈り機を運転して会いに行くことを選んだ。野宿生活をしながら自力で進みつづけたのも、そのもどかしさに対する挑戦なのだと思う。

 学生でいられる時間は限られていて、先輩達はやり残したことがたくさんあると口々に言う。私自身、大学生活でやりたいと思っていたことの半分もできていない気がする。そんな中、アルヴィンはやりたいと思ったこと、今しかできないことを自力でやってのけた。限られた時間で何ができるか、それが大学生に課された一つの課題のように思われる。彼のまっすぐな姿勢が、そのことに気づかせてくれた。