<書評>伝え難きを伝える・『坂本龍一✕東京新聞 脱原発とメディアを考える』(2014・東京新聞編集局編)

 東日本大震災福島第一原発事故。筆舌に尽くしがたい、これらの惨事は報道機関に対する国民の不信感を招いた。同時に凄惨な現場を目の当たりにした記者らは、どう伝えたればよいのか自問自答したそうだ。

  本書はリベラルな新聞として知られる東京新聞の記者が音楽家かつ環境保護や脱原発の運動家である坂本龍一を招き、脱原発をテーマに「伝える」ことと向き合った様を収録したものだ。新聞の紙面には決して載ることのない記者らの伝わらないことへの苦悩、伝えねばならないという使命感と意志も垣間見ることが出来る。

 私自身、取材をし記事を書くと怖くなることがある。取材相手から受け取ったメッセージが伝えるべきものだと思えば思うほど、自分の言葉の非力さが身に染みる。自分が書いたがために伝わらなくなってしまうのではないか、と怖気づいてしまう。日常でも、政治的なことでなくても相手と意見が異なることをどう話し合うか、お互い気持ちよく折り合いをつけるためにはどうしたらよいのかと悩むことがある。

 原発のように賛否が分かれ、両者の譲り合いが難しいような問題は他にもある。今回*1、本誌が特集した安保法案や沖縄の基地問題もそうだ。喧嘩をしたいわけではないが、自分の意見を譲れないから、言い争いになってしまう。主張することと相手を否定することは違うはずだが、いつの間にか憎しみのこもった言葉が飛び交う。

 伝えるって難しい。でも、伝えていかねば何も変わらない。音楽で表現し続けてきた坂本龍一と取材先と読者を言葉で結び続ける記者の対話はその方法について考える鍵をたくさんくれた。勿論、本書には原発の問題点やこれまでの報道についても分かり易く記載されている。

 未だ収束の道が見えぬ原発事故や川内原発の再稼働などについて考えたい際、脱原発派の主張を理解するのに最適の一冊だ。(執筆者:池谷歩実)

 

坂本龍一×東京新聞  脱原発とメディアを考える

坂本龍一×東京新聞 脱原発とメディアを考える

 

 

*1:LINKジャーナル15号10月発行