プロの仕事論 78 歳バーテンダー・田中光男氏(村上直樹)

 

大阪市あべのハルカスの近くにあるバー「Mr.TANAKA」は開業50年を超える老舗だ。がんを患ってもマスターの田中さんがカウンターに立ち続けるのは、家族やお客さんの存在が心の支えになるからだ。

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カクテル「ブルーハルカス」

白い砂糖は雲を連想させる

 目配り気配りは職業病

 「耳が遠いもんだから申し訳ない」。田中さんの声は乾いているが、芯が通っている。「がんの影響なんですよ。耳が聞こえなくなって」。2015年1月に扁桃腺がんと診断され、余命半年と医師から告げられたという。そして受けた36回の放射線治療の副作用が今、体に現れている。鼻は乾燥、喉はカラカラ。

 それでも田中さんは現役だ。カウンターに座っているお客さんから「目配り気配りさすがですね」と言われると「職業病です」と笑ってみせた。お客さんと話しながら店内全部を見ているという。

「お客さん」が元気の源

 田中さんは60年間バーテンダーを続けてきた。最初の10年間は見習いとして働き、自分の店を開業してから今年で51年目になる。「最初の頃は、失敗したらカウンターの中でぽんと蹴られるしね。何が駄目だったかを自分で考えた」と振り返る。仕事のやりがいは、「お客さんに喜んでいただくこと」。シェイカーの振り方ひとつにしても、いかに氷を溶かさず振るかに神経を研ぎ澄ます。「自分がお客さんに対して心を尽くして仕事をすれば、良いものを提供できるんです」と熱く語る。

 仕事を続けられる原動力は、家族や店のスタッフの支えだ。また孫の世代にあたる若い人からハグされることもあるという。「お客さんからパワーをもらっているんです。元気の源ですわ」と声を弾ませた。