<書評>独特な文体から浮き上がる物語・『恋文の技術』 (森見登美彦・ポプラ社)

 物語の舞台は、京都から少し離れた能登半島だ。京都の大学院に在籍する主人公の守田一郎は教授に命ぜられ、能登半島臨海実験所にクラゲの研究をするためにやってきた。

 森見登美彦は作品のあとがきで「夏目漱石の書簡集がおもしろかったので、とにかく真似しようと思った」と述べている。実際に作品の冒頭から

四月九日
拝啓。
お手紙ありがとう。研究室の皆さ
ん、お元気のようでなにより。

と守田一郎が京都の友人や知人へ送った手紙という体裁で進んでいく。

 手紙の内容からは、守田一郎の頼りない友人、小松崎友也の奇行や意地悪な先輩、大塚緋沙子の悪行の様子がうかがえる。守田一郎が一人ひとりに送った手紙の内容は断片的だが、読み進めていくうちに物語の全体像が徐々に分かってくる構成の巧みだ。また森見登美彦独特のユーモラスな文体に読んでいて思わず笑みがこぼれてしまった。

 私自身、最近では連絡をメールやスマートフォンアプリの「LINE」で済ませてしまうことが多くなった。どこにいても、だれとでも、すぐに連絡が取れる現代において、年賀状や暑中見舞いなど、特別なことがない限り手紙を送ることはなくなった。

 しかし、守田一郎のように手紙という改まった形式で、親しい友人に対して伝えたいことを送ってみるのも悪くない。みなさんもたまには手紙を送ってみてはいかがだろうか。(川嶋健佑)

 

著者の森見登美彦は2003年に『太陽の塔』で華々しいデビューを飾った人気作家。同作品で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、以後も京都を舞台にした作品で人気を博している。13年には人間に化けた狸が活躍する物語『有頂天家族』がアニメ化された。

 

 

恋文の技術 (ポプラ文庫)

恋文の技術 (ポプラ文庫)