沖縄の平和教育のあり方が問われている。議論のきっかけとなったのは、石垣市教育委員会の玉津博克教育長(当時)の発言だ。2013年9月、玉津氏は石垣市議会の答弁で沖縄の平和教育について「平和の尊さを教えるとしながらも、戦争の悲惨さを強調する教育となっている。その教育の弊害は、戦争に対する嫌悪感から派生する思考停止と言える」と述べた。一方、15年8月、当編集部の取材に対し、沖縄教職員組合委員長の山本隆司氏は、「何事も実際に体験しないと分からないが、戦争についてはそういうわけにはいかない。体験しなくても(戦争の悲惨さを)イメージできるよう伝えている」と、悲惨さを強調する意義について話した。
▶玉津氏「平和維持」視点と反発
13年9月、玉津氏は答弁の中で「平和教育においてはどうすれば平和を維持できるか、どうすれば戦争を防げるかという視点から情報収集力、思考力、判断力、行動力を身につけさせることを目標に実践されるべき」と述べた。
玉津氏の発言に対し、琉球新報は社説で「沖縄における平和教育の原点は、戦争がいかに悲惨で愚かしいことかを伝えることにあり、弊害などでは決してない」と批判。平和憲法を守る八重山連絡協議会は「県内の平和教育を否定するものだ」と抗議した。
▶「戦争の原因」考え直す教育を
山本氏によると「戦争は悲惨だからしてはいけない」という点を強調しているわけではないという。「格差や不平等感、被差別感、コミュニケーションの無さなどが戦争の原因。対立の由来を一つひとつ考え直すことが平和に向き合うということでは」と分析する。
沖縄県では沖縄終戦の日にあわせて平和学習をする日を設けている。山本氏は「戦時下を生き抜いた方を見て、自分たちが今後どう生きるかを考えずに、単に一年に一度暗いことをする日になってしまうと今後に繋がらない」と話す。また「児童や生徒に平和がどういうものかをイメージさせ、何をすべきかを考えさせる必要がある」と語った。
▶中国やアメリカの立場からも
京都教育大学の村上登司文教授は、平和学習で「どうして戦争が起こったかを考えるべき」と指摘。中国やアメリカの立場からも戦争を振り返る必要があるという。
戦争経験者が直接体験を語る機会はいずれなくなってしまう。「思考停止」を避けるために、個人が平和のためにできることを自発的に考える教育が求められる。(執筆者:村上直樹)